勝利至上主義からの脱却

完全試合を達成した千葉ロッテマリーンズの佐々木投手の高校野球時代の映像がよく取り上げられます。活躍のシーンではなくて、岩手県大会の決勝戦に登板しなかった佐々木投手をカメラが追いかけます。準決勝までに多くの球数を投げたので、監督が佐々木選手の将来を見据えて、当番を回避させたのです。当時、賛否両論で盛り上がりました。どちらかというと、「なんで投げさせなかったの?甲子園への夢を絶たせたことが良かったのか」という声が大きかったです。

 

しかし、今の佐々木投手を見れば、「あの時の監督の選択があったから」と言われるようになりました。

 

今年4月に、静岡県掛川市で一風変わった学童野球チーム「グッドフェローズ」が始動しました。練習は週2回で、他競技との掛け持ちも推奨しています。練習の3分の1は基礎体力、運動能力を高めるフィジカルトレーニングにあてます。

 

冒頭の佐々木投手のように、高校野球では球数制限の導入など、ケガや痛みを我慢しながらプレーする選手は減っていますが、小中学生の学童野球では、年間100試合をこなすチームもあり、勝つためにエースにずっと投げさせるチームはまだまだたくさんあって、未熟な体に無理をさせてケガにつながることが多いようです。

 

「グッドフェローズ」の創設者でヘッドコーチの甲賀さんは「学童野球での活躍と、その後の野球人生の充実は比例しません。目先の勝利至上主義から脱却し、高校以降を見据えて万全の状態で子どもたちを送り出したいと思っています」と話します。

 

勝利至上主義のチームだと、「おまえ、使えないな」などという言葉が飛び交います。そうすると子どもはコーチの顔色ばかりうかがい、スポーツを楽しめなくなります。そうなると「もういやだ!」とやめてしまう子が少なくないのが現実です。

 

ラグビー元日本代表の平尾剛さんは、「アマチュアスポーツの本質は勝利そのものではなく、勝利を目指す過程で何かを身につけたり、一生懸命取り組むことでプロセスが充実したりすることでしょう。しかし、勝つことを最も価値があることとみなし、それ以外をすべて従属させるかのような短絡思考が若年層のスポーツ現場でもしばしばみられます」と言います。

 

勝利至上主義は、ケガ防止だけでなく、コーチが求めるようにできないと自信を無くし、自己肯定感の低下につながるという、メンタルの部分での問題もあります。

 

もちろん、コーチにすべての問題があるわけではありません。我が子の試合結果にばかり一喜一憂してしまう親の熱意にこたえようとやり過ぎもあるでしょうし、コーチの育成自体も、技術論中心で、メンタルやスポーツを楽しむ思考からかけ離れていることもありますね。

 

どうですか。この話は、将来プロを目指すような一流選手だけの話ではなさそうですね。保育園の子どもたちには、運動会の競技や、先日の保育参観では「ストライダーレース」を行いました。はい。勝ち負けがつきます。勝つ園児は一人だけでその他は負けです。しかし、勝利至上主義にならないように、勝った園児は自己肯定感が強まり、負けた園児は「次は頑張るぞ!」という気持ちにつなげないといけません。

 

勝つこと、優勝することの達成感は、子どもたちの成長には大きなプラスになることは事実です。しかし、そのために、見逃された犠牲が、たくさんあったことを考えると、子どもたちへのスポーツ指導は、間違いなく変わっていかないといけないのです。