「おふくろの味」の正体

昨日の長女の結婚式では、フランス料理のフルコースが提供されたので、テーブルの上には、ナイフやフォークがずらりと並びます。義理の母が「どれから使ったらいいの?」と戸惑うほどでした。(笑)

 

そんなフレンチのコースと対極に位置するのが、「おふくろの味」です。しかし、「おふくろの味」の正体は、そう簡単には説明できませんね。

 

まずは、「おふくろの味」と聞いて、どんな料理を思い浮かべますか。肉じゃが・コロッケ・ポテトサラダ・・・が、私の世代では浮かんできます。

 

「おふくろの味」をタイトルに掲げる料理本は1960年に登場し、一昨年まで総数101冊出版されました。70年代と90年代に2回、出版ピークがあったそうです。最初のピークは、1960年代の高度経済成長期に、若者が集団就職で故郷を離れ、望郷の念が募ります。一方、故郷側も第一次産業衰退の穴埋めに「ふるさとの味の商品化」を推進します。そんな時代背景から「おふくろの味」が生まれ、浸透していきました。

高度経済成長期には、専業主婦が定着し、「料理はお母さんが作るもの」という性別役割分業の意識も一体化して、「おふくろの味」という言葉が広がっていったようです。

 

2度目のピークは90年代、メディア主導で「おふくろの味」はモテ料理に位置づけられ、当時比較的新しい料理だった「肉じゃが」が伝統的な「おふくろの味」であるかのようにイメージされたのです。

 

このタイミングで「肉じゃが」が定着したようです。今では、私だって「めんつゆ」を使って、そこそこの味の肉じゃがを作ることができます。(笑)

 

この時代は、日本の家族が大きく変容します。1997年には、共稼ぎ世帯の数が専業主婦世帯を上回ります。しかし、「料理はお母さんが作るもの」という性別役割分担意識は、今まで通りで、実態とのギャップが出始めるのです。彼氏に「おふくろの味」を求められる女性がいら立つのも、こうした社会背景があるからです。

 

そして、2000年代に入ると、「おふくろの味」をタイトルにする料理本はなくなります。「おばあちゃんの味」や「ほっとする味」の言葉に置き換わっていったのです。こうして、時代背景を分析すると、「おふくろの味」は社会や時代がつくり上げた、『たかが40年間の幻想』でしかなかったということです。

 

世の男性諸君は、がっかりしましたか?そして、「おふくろの味」を期待されて、悩んでいた女性は「なぁんだ~そんなことだったのか!」と思ってください。

 

でも、あなたの家に、本物の「おふくろの味」があれば、それは幸せなことですね。私の場合は、「煮物」です。(笑)