若者の「回復力(レジリエンス)」

伝説の映画俳優「ブルース・リー」が構想していた、映画「死亡遊戯」の冒頭シーンは、強風が吹く広大な雪原の中に、厚い雪で覆われた巨木が立っています。突然、バキッという音がし、大きな枝が地面に落ちます。視線を変えると、別の場所には、柳の木が風にしなりながら立っています。

 

ブルース・リーは、「環境に適応しているがゆえに、柳は生き残る」と語ります。武道や人生における適応力や柔軟性が大切と、このシーンで訴えたかったようです。

 

レジリエンスという言葉が、よく使われるようになりましたが、つらい経験をして、一度は人生に絶望したにもかかわらず、やがて一歩一歩、前へ歩みを進めること。人間が生来持つ、逆境における回復力という意味です。

 

ブルース・リーは、大きく、太く、強くなくてもいい。小さく、細く、弱いままでも、しなやかであれば、襲いかかる逆境にも何とか耐えられる。というメッセージを「死亡遊戯」の冒頭シーンに込めたのかもしれません。

 

先日、神奈川県鎌倉市立腰越中学校で、自殺予防活動をしている高橋聡美さんが、3年生を前にして「SOSの出し方」の授業を行いました。

 

「アンパンマンって、実は弱いんですよ。顔が汚れると力が出ないし、一人では戦えないでしょ。でも、アンパンマンには強みがあります。自分の限界を自覚し、周りに助けを求めることができる」と言います。そして、「誰にでもレジリエンスはあり、たくさんある方が困難を乗り越えやすい。そして、あなたも誰かのレジリエンスになれるんです」と力強く訴えます。

 

私たち大人は、大きな挫折というレベルでなく、仕事の失敗でも、自分一人で抱え込んで解決しようとすると、たいがい状況がさらに悪くなることを経験しています。しかし、若者は、人に頼ることがカッコ悪いと考えます。昨年の小中学生の自殺者は過去最多になってしまいました。

 

過激なナチス収容所体験を記録した著書「夜と霧」で知られるオーストリアの精神科医、ビクトール・フランクル博士がいつも話していた言葉があります。「あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望していない。あなたを待っている誰かや何かがある限り、あなたは生き延びることができるし、自己実現できる」

 

大人の私たちは、若者のレジリエンスを期待し、力にならなければなりません。