色と言葉

今日は屋上で凧揚げをしました。風がなかったので、子どもたちは全力で走ります。市販のビニール凧ですが、いとも簡単に大空を舞ってくれました。最近は、お正月に子どもが、凧あげや羽根つき、駒遊びをすることも少なくなってきたので、広い屋上で、思う存分楽しめたようです。

 

さて、「草木染め」の話です。人間国宝の染織家(染めることと織ること両方行う)に志村ふくみさんがいます。志村家の染織は、植物染料を使う「草木染め」です。志村家は、その技を伝えるために、アルスシムラという学校を開きました。そこでの生徒たちのエピソードが、とても興味深いのです。

 

新人の生徒は、まず自分の思い描いたデザインがあって、それに合った色を出そうとしますが、たいていうまくいかないそうです。三代目が言うには「それは結局、順番が逆だからです。自分があって、それに植物を合わせるのではなく、まず植物があって、そこに自分を合わせていく。草木の持つ、本来の命の色をどうしたらこちら側に宿すことができるのか。そういう気持ちでないと、染めはうまくいきません」とのことです。

 

これは、学校教師や幼稚園、保育園の先生たちにも言えることで、自分の思いに子どもを合わせるのではなく、子どもには、子どもが持つ本来の命の色があると言います。機織りでは、たて糸をまず計画通りに張り、あとはよこ糸を入れながら織っていきます。そのよこ糸を入れる時に失敗をするそうです。しかし、講師は「何で間違えたんだ」などとは言わず、意気消沈した生徒に「いいのよ、いいのよ」と声をかけます。失敗したところから全体を設計し直し修正していく。そして、全体の設計図が変化していくのだそうです。

 

三代目は「目標は目標としてあっても、途中の出来事によっていつでも柔軟に変えていくことができる。それは、生きた仕事の仕方であり、ひいては生きていることそのものにも当てはまる」と言うのです。なかなか深い言葉ですね。

 

どうしても、伝統工芸の世界は、「先祖代々守りぬいた技」をかたくなに守るイメージがありますが、三代目は、「時代にあわせて変化に対応していけるような生きた思想がなければ、やがてその組織の生命感は失われ、色あせていくに違いないでしょう」と考えています。守ることと変化することのバランスが、絶妙なのですね。

 

志村家の「色と言葉」は、こうして、時代の変化に合わせて、ずっと受け継がれていくのでしょう。